「院長の独り言」(第11,13,14,15,16回)に既にアップしていますが、気候変動、特に急激な気圧低下に伴う自律神経バランスの乱れが心房細動再発の引き金になることが示唆されています。「頭痛〜る」アプリで偏頭痛発症の警告がでるのと同様に、気圧低下が予想される日には抗不整脈薬を前もって頓服することで、高い予防効果も経験されています。ある時、第15回の「院長の独り言」でご紹介した患者さん(K.K氏51歳)から驚きのメッセージが届きました。「記録を見直していたら、気圧変化からは想定できない日にも時々発作がでており、それがこの半年間、毎月の満月の日と一致していました」と。俄には信じられませんでした。潮の満ち干が月の引力に影響され、海面が上下することは知られていますし、満月日には月の引力が最大になるそうです。海面を上下させるほどの引力があれば、人体の自律神経に影響することは十分考えられます。東洋医学でも、昔から月の満ち欠けでホルモンバランスが影響を受け、体調が変わることが知られていましたし、新月や満月の前後に生理が始まったり、出産にも関わっていると言う説もあります。
心房細動も気象病だと疑わせる貴重なご自身の体験を報告くださったK.K氏です。2024年から2年間、殆ど毎日Apple Watchで記録した心電図と気圧変動データをLINEWORKSで送信して下さり、私と二人で頭を捻りながら編み出した発作予防のための抗不整脈薬の頓服療法で、殆ど発作も治まっておりました(「院長の独り言」第16回参照)。改めて、直近の2025年11月1日から12月5日迄に送信された24日間の気圧変化と細動再発の状況について紹介します。
第15回でも示しましたが、一日の気圧変動には大きく分けて2パターンがあります。
タイプ1(下降型):一日の初めから24時間後にかけて右肩下がりに急速に気圧が低下する。
タイプ2(上昇型):逆に、前日の低かった気圧が一気に右肩上がりに上昇して天気も回復する。
細かく見ると一日の中でアップダウンを繰り返すタイプもありますが稀でした。K.K氏の場合には、タイプ1であっても細動発生時の気圧や、その日の最低気圧とは無関係に、比較的短時間内に大きく気圧が低下していく時期に一致して発症する傾向がありましたので、気圧の絶対値ではなくタイプ別に見てみました。
表1に示す様に、今回の24日間では、タイプ1が13日間、タイプ2が11日間でした。この間心房細動発作が6回発症していましたが、タイプ2の日は12月5日の1回だけで(図1)、残り5回はタイプ1の日でした。タイプ1の日には発作が多いご自身の経験から、その変化が予報された日の前日には抗不整脈薬を頓服するのが日課で、それで殆ど発作は予防されていました。最近は少し油断もあってか飲み忘れも時々あり、それで再発したのが3回、頓服したのに再発したのが2回でした。図2には、典型的なタイプ1ながら服薬を忘れて再発した11月27日の気圧変化を示します。このように1年ぶりの集計でも、タイプ1の日に心房細動発作が多いという関係が見られました。
そこで次に、満月との関係を見てみました。K.K氏の直近の半年間で、満月と相前後した再発が確認できました:7月10日(満月前日)、8月9日(当日)、9月7日(満月2日前)、10月6日(満月前日)、11月4日(満月前日)。神秘的ではありませんか?とても偶然とは思えませんが、暦によれば、次の満月が12月5日でしたので、固唾をのんでその日を待つことにしました。すると、その日の10時過ぎにデータが送信され、細動再発が確認されたのです。いつもは早朝6時前後の再発なのが、この日は少し遅れ、「この時刻は干潮と一致していました」、とコメント付きでした。鳥肌が立つ様な驚きでした。この12月5日の気圧変動は図1に示した通りのタイプ2で、K.K氏のこれまでの経験ではほぼ100%発作が起きないはずでした。満月が、何らかの影響を与えた可能性が考えられます。
これを受けて、症例を重ねて解析することに決めました〜次回を乞うご期待〜
【表1】
| 気圧変動タイプ | 再発の有無 | 頓服の有無 | ||
|---|---|---|---|---|
| 下降型 | 上昇型 | |||
| 11月1日 | タイプ2 | 洞調律 | ||
| 11月4日 | タイプ1 | 心房細動 | 頓服(+) | |
| 11月5日 | タイプ1 | 洞調律 | ||
| 11月6日 | タイプ1 | 洞調律 | ||
| 11月7日 | タイプ2 | 洞調律 | ||
| 11月11日 | タイプ2 | 洞調律 | ||
| 11月13日 | タイプ1 | 心房細動 | 頓服忘れ | |
| 11月14日 | タイプ2 | 洞調律 | ||
| 11月15日 | タイプ2 | 洞調律 | ||
| 11月16日 | タイプ1 | 洞調律 | 頓服(+) | |
| 11月17日 | タイプ1 | 洞調律 | 頓服(+) | |
| 11月18日 | タイプ2 | 洞調律 | ||
| 11月19日 | タイプ2 | 洞調律 | ||
| 11月20日 | タイプ1 | 洞調律 | 頓服(+) | |
| 11月21日 | タイプ1 | 洞調律 | 頓服(+) | |
| 11月23日 | タイプ1 | 洞調律 | 頓服(+) | |
| 11月25日 | タイプ1 | 心房細動 | 頓服忘れ | |
| 11月26日 | タイプ2 | 洞調律 | ||
| 11月27日 | タイプ1 | 心房細動 | 頓服忘れ | |
| 11月28日 | タイプ2 | 洞調律 | ||
| 11月29日 | タイプ2 | 洞調律 | ||
| 12月1日 | タイプ1 | 心房細動 | 頓服(+) | |
| 12月3日 | タイプ1 | 洞調律 | ||
| 12月5日 | タイプ2 | 心房細動 | ||

