第15回でご報告した、「ジェットコースター型気圧低下に伴う心房細動発作」を示す患者さんのその後の経過です。
気圧予報図を見ながら抗不整脈薬を予防的に頓服するようになりました。試行錯誤的に、気圧低下がある日でもこの程度なら大丈夫だろう、これは飲んだほうがいいかも、とご自分の判断で頓服されていましたが、2024年12月24日の再発を最後に、2025年2月2日まで、なんと40日間連続で発作再発がなくなりました。この間、以前なら必ず再発していたような、激しい気圧低下を含む下降型の気圧低下を17日間で認めましたが、頓服薬を飲んだのは3回だけで、それも1月17日までで、それ以後は危ないパターンの日を含めて頓服はされずに、発作なしで快適に過ごされたとのことです。なお、2月2日は前日に「飲んだほうが良いかな?」と思いながら服薬を忘れてしまった翌朝の再発だったとのことです。以前は月に数回は発作を繰り返されていたので、明らかに気象図を参考にした治療戦略が奏功しているようです。
気象をコントロールすることはできませんが、発作の起こる状況を見極めて予防的に頓服薬を飲んだり、深酒を避けたり、十分睡眠をとるようにすることで、問題解決に至った良いお手本かと感じました。
心房細動の発症には心房筋の「リモデリング現象」が関わっています。発作を繰り返すうちに、心房筋の電気的興奮にかかわるイオンチャネルや細胞・組織に変化が生じ、心房細動がより起こりやすく、発作回数が次第に増え、止まるまでの時間が伸びたりしてきます。これとは逆に、「逆リモデリング現象」と呼びますが、発作がない時期がある期間(月単位)続くと、心房筋の変化が改善し、再発しにくくなります。薬物療法でも一定期間治療が成功した後は、薬を中止しても再発がなくなるのもこの現象の故と考えられています。
この患者さんの場合も、気象データを読みながら、頓服薬を使いながら、こうして一ヶ月以上も発作が出なくなると、頓服を飲まなくても再発がなくなる可能性があります。今まさにこの段階に来ているのかと考えています。
この患者さんも2年前にアブレーション(焼灼)治療を勧められていましたが、まさに当クリニックで標榜する「灼かずに治す心房細動」の良い例かと思います。今後に乞うご期待です!