小川聡クリニック

院長の独り言

第12回久し振りに嬉しいことがありました!
〜共通の価値観を持つアブレーション医との巡り会い

東京23区にも大雪警報が出された2月初の月曜で、前線も通過中なので心房細動発作が増えることを心配しながら診療をしておりましたが、大変嬉しいことがありましたので報告させてもらいます。

今日も3名の初診患者さんがありました。最初のお二人は、健康診断で初めて見つかった心房細動に直ぐアブレーションが必要ですと言われ、他の治療法を求めて受診された方達です。いつものパターンで(「院長の独り言」第10回「最近の心房細動診療で想う事」参照)、無症状で日常生活にも支障なく、現状でアブレーションは不要と判断しました。相変わらずの流れに一寸残念な思いでいた所、福岡在住で、3年くらい前から年1回程度、数10秒の短い心房細動発作を持つ方が、雪の中を来て下さいました。3年前にも「直ぐアブレーションを!」と言われましたが断り、以後Apple Watchを購入して心電図で自己管理されてました。動悸時の記録で時々「心房細動」と表示されるので気にはしてたそうですが、すぐ治っていたようです。今年の新年に運転中に軽い動悸を感じ、心房細動が30秒間発生しました。そこで、Apple Watchの心電図記録を持って福岡、北九州の病院を数カ所回ったそうですが、いずれもその場で「アブレーションやるしかないです!」との診断。落胆したままもう一カ所受診した所、そこの先生は「アブレーションをどうしてもやりたいならやってあげても良いですよ。でもその前にやることが幾つもあるでしょう!よく考えて下さい」と、婉曲な言い方でしたがアブレーションを断られたそうです。この方の発作は、大酒と関係があるようですし、肥満気味の愛煙家。生活習慣を正し、それでもダメなら薬での治療もあるから、とのこと。

これまで受診された心房細動患者さんからのお話で、医師が直ぐにアブレーションを勧める最近の風潮を好ましく思ってませんでしたが、こういう説明をしてくださる医師が居ると知り感激しました。折角の機会と思い、福岡のどちらの病院ですか?と伺った所、「福岡山王病院です」の答えにさらに驚き。「まさか熊谷浩一郎先生では?」、「ハイそうです」。

福岡山王病院は、8年前迄私が院長をしていた国際医療福祉大学三田病院の姉妹病院で、尚かつ熊谷先生は、30年来の友人であるとともに、我が国の不整脈治療、特にアブレーション領域のリーダーのお一人としてご活躍です。学会に於いても指導的立場にいらっしゃる熊谷先生の患者さんへの説明に改めて接して、これ迄抱いていたもやもや感が一掃された思いでした。福岡・北九州地区でも著名な幾つかの病院で、かつアブレーションを専門とする先生から「アブレーションをすぐやりましょう」と勧められた患者さんが、アブレーションのまさにエキスパートから、「アブレーションは不要です。その前にやるべきことをやってください」と説得されたわけです。こういうリーダーがいらっしゃる限り、まだまだ心房細動の臨床現場は大丈夫との思いを強くしました。アブレーション治療を志す若い先生方には、アブレーションを極めた熊谷先生のこのスタンスを是非学んで頂きたいと思いました。若い先生方には、心房細動=アブレーションと言う短絡的思考ではなく、個々のケースで各治療法のmerit-demeritを熟慮した上で治療選択肢を決めて欲しいと思う私ですが、まさに我が意を得たりの心境です。この患者さんへの私の判断も熊谷先生のご意見通りで、Apple Watchを活用しながらの経過観察になりました。

この患者さんとのやり取りからApple Watchで記録する心電図の診断上の問題を再認識しました。Apple Watchによる心房細動の自動診断の精度(心房細動を心房細動と認識する能力)が高いことは以前から指摘してきましたが、心房細動以外の不整脈診断の信頼性には解決されるべき点が多々あります。特に、期外収縮による脈の不整を「心房細動」と誤診するケースも目立ちます。必ず、専門医の目を通してもらって「診断」することが不可欠です。実は今回の患者さんが持参して下さった記録の中に心房細動でないのに「心房細動」と表示されているものが何枚かありました。患者さんに余計な不安感を持たせることになりますし、その誤診を鵜呑みにした医師が誤って治療を行うことは絶対に回避しないとなりません。今回の患者さんが訪れた医療施設に居たのは、アブレーションを直ぐに勧めるほどの不整脈専門医でしたが、Apple Watchの記録を見て心房細動でない不整脈を「心房細動かな?」と自信なさそうだったり、同じ記録を見せても先生毎に診断が異なることがあり、患者さんは信頼を失ったようです。最近は、心電図の自動診断が普及しているので、心電図の判読を十分修練する医師が減っているとしたら大問題です。その点で、今回の患者さんにも興味を持って頂きましたが、当クリニックが実践しているApple WatchデータをLINEWORKSを用いて送信して診断を仰ぐシステム(AW-ECGパッケージ)が有用です。記録時のノイズや複雑な不整脈のため「判定不能」と表示された記録でも、心電図判読に長けた専門医(当院の場合は私ですが)が有用な情報を読み取り診療に活かします。当クリニックのホームページのトップに詳細が掲載されてますので、ご参照ください。