小川聡クリニック

院長の独り言

第2回「聴診はミクロの世界〜心音・心雑音の聴き分け」

聴診といっても聴診器を当てる部位、当てる順番、当てる強弱、などにルールがあり、それによって聞こえてくる心音、雑音の様子が異なり、障害されている弁膜、その障害の程度などが診断できます。雑音以外にも、本来の4つの弁膜の開閉音も聞き分けます。もちろん、この手技は鍛錬によって向上しますが、診断能力には大きな個人差が生じます。医者が聴診器を患者さんの胸に当てている時に、何を聴こうとしてるのかを少し理解いただくと医者への信頼度が増すかと思います。健康診断で、ちょこっと適当な場所1−2カ所に聴診器を当てるだけで、「はい終わりました。次の方どうぞ」、と言うような医者は「?」マークです。当てる場所、順番にも注意してみていると医者の習熟度がわかるはずです。最初に心尖部(左の乳頭あたり:第5肋間中鎖骨線)に当てて、強く押したり、軽くしたりの変化をつけて聴き、次に第2肋間胸骨左縁に場所を変えて、呼吸を止めたり、ゆっくり呼吸するよう指示しながら聴いてくれ、さらに2−3カ所(最初の2カ所で雑音が聞こえた場合ですが)に場所を移動して聴いてくれる、そんな先生に当たれば大成功と思ってください。少し専門的になりますが、医学生が勉強している具体的な聴診の基礎を以下に書いてみました。

心臓が収縮を開始すると僧帽弁と三尖弁(それぞれ左右の心房と心室の間に位置します)が閉まり、最初の音を発生します(これを第1音と呼びますが、ほとんど同時なので一つの音に聞こえます)。次いで拡張する際には、心臓の出口にある大動脈弁と肺動脈弁が閉鎖し、収縮期に心臓の外に拍出された血液の逆流を防ぎます。その際に発生する音(第2音)については、通常は大動脈弁、次いで肺動脈弁の順番で、0.02秒から0.04秒の間隔です。しかも呼吸につれてその間隔も変動するので、「呼気時に何秒で吸気時に何秒まで変動」と記載します。聴診器では、「タン(第1音)、タ・タ(二つの第2音)」と聴こえます。心拍数が毎分60の時は、1秒ごとにこれが繰り返されます。その「タ・タ」の間隔が何秒かというミクロな話です。

聴診で聞いたこの間隔を事前に書き留めておいて(最初は当てずっぽうのところもありましたが)、直後に記録した心音図での正確な何秒かと答え合わせして、仲間と競い合ったものでした。訓練用のテープ教材もありました。人工的に二つの音を0.02秒、0.04秒、0.06秒など、いろいろな間隔で発生させ、聞き分けさせるのです。毎晩、自分の胸に聴診器をあてながら眠ることもありました。そんな鍛錬が功を奏して、耳が次第に研ぎ澄まされていき、聴診には絶対の自信をもつようになりました。最近では、少し高音難聴の兆候(加齢性変化です)が出てきたとはいえ、まだまだ若い者には負けません。診察を受ける際に、医者が難しい顔をして聴診器で胸の音を聴いてくれている時は、こうしたミクロの世界で格闘しているとご理解ください。
聴診万歳!