小川聡クリニック

院長の独り言

第6回「アップルウォッチで「心房細動が撮れた」第一例が来院されました」

昨年9月に医療機器認証を受けていたアプリが、漸く2021年1月27日にアップルウォッチに搭載され心電図が記録できるようになりました。特に今回は「不規則な心拍通知機能」も実装され、不整脈の中でも特に「心房細動」の診断に期待が持たれています。

そんな矢先、大きくマスコミでも報道された直後の2月1日に一人の男性がクリニックを訪れました。57歳の会社員で、この2−3年、なんとなく動悸がしていたのでアップルウォッチを購入して、心拍数を見ていたようです。すると、心拍数のトレンドクラムで1日平均100/分以上になることが週1回くらい認められていました。1月29日に、解禁されたばかりのアプリを用いて心電図を撮ってみたところ、なんと早速「心房細動」とのサインがでて、驚いて来院されたようです。私自身もアップルウォッチの記録を見せてもらうのは初めてでしたが、とても安定した記録で「心房細動」で間違いありませんでした。そこで、原因究明を含めて詳しく診察をさせていただきましたが、血圧が198/115と高く(3-4年前から150~160/100が続いていましたが医者にかかったことはなかったようです)、心エコー検査では著明な左心室肥大と左心房拡張も認めました。高血圧症は心房細動の要因ですし、心原性脳梗塞を起こすリスク因子でもあり、この方の場合には年間4%くらいのリスクが想定されました。

そこで、先ずは脳梗塞予防のために抗凝固薬を飲み始めていただきました。幸い、心房細動そのものによる自覚症状は強くないので、暫くは高血圧治療に専念して、アップルウォッチでの心房細動発作の状況を見守っていくことになりました。

大事なことは、アップルウォッチで心房細動が見つかった後の流れです。米国での臨床研究により、アプリによる自動診断で93%の感度で心房細動が正確に診断されることが示されています。ただし、中には診断の難しい記録があったりしますし、実際に記録された心電図を専門医に診てもらって確認する作業が不可欠です。心房細動の診断がついたとして、次はその心房細動をどう治療するかの判断が必要です。心房細動を放置すれば年間4−5%の率で脳梗塞を合併し、血栓予防のための新規抗凝固薬によりそれを1%にまで抑えることができます。しかし抗凝固薬の副作用は出血です。使い方を一つ誤れば脳内出血を含めて致命的な出血を引き起こします。平均すると年間1%とされますが、高齢者、腎機能障害例、糖尿病例などではさらに増大します。そのあたりのrisk-benefitを十分考慮した上で治療適応を決める必要があります。個人個人で治療の最適化を計らなければなりません。また、心房細動自体の治療法も、有効性の高い抗不整脈薬が幾つかあり、それらを的確に使い分ける事で治療する事が可能です。もちろん非薬物療法であるカテーテルアブレーション治療も有望です。それらを個々の症例でどう使い分けていくのか、という判断をする必要があります。

当クリニックでは、2018年から慶應病院循環器内科木村雄弘医師に「心臓ヘルスケア外来」を担当していただき、アップルウォッチによるデジタル診療を始めています。木村医師は慶應病院でアップルウォッチを利用した臨床研究を展開したこともあり、アップル社のクックCEOが来日した際に、わざわざ慶應病院へ表敬訪問してくれた間柄です。心房細動治療を専門とする小川と木村医師がタッグを組んで、アップルウォッチを用いた新しい診療の基地として当クリニックを利用していただけるかと思っています。