小川聡クリニック

Dr.木村のデジタルヘルスケア講座 〜ヘルスケア外来担当の木村先生からのメッセージです〜

第2回「家庭用心電計のすゝめ」

心臓の原動力は電気です。自律神経によって制御された規則正しい速さで、発電所(洞結節)から出た心臓の電気は、心臓の上の部屋(心房)、下の部屋(心室)へと順番に伝わり、心臓の部屋を交互に収縮させます。これにより、心臓はポンプとして血液を送り出すことができます。正常と違う電気の流れ方やタイミングで心臓が動いてしまう場合を不整脈といい、電気の流れ方によって一つ一つ病気の名前が付いている為、たくさんの種類があります。この電気の流れる様子を直接記録したものが心電図です。したがって、心電図を専門医が見れば心臓がどのような動きをしているか、つまり、不整脈の診断をすることができます。

心電図は健康診断などで一度はやったことのある方が多いと思います。電極を貼って、横になるだけで心臓の状態がわかる、痛みも負担もない優れた検査です。しかし、心電図を記録している間に異常があれば診断できますが、記録中の数十秒間に症状や発作がなければ検出することができません。心電図は、いつでもただ記録をすれば心臓の異常が全てわかるわけではなく、異常があるときに記録することが大事なのです。

そこで長く心電図を記録すればするほど、不整脈を見落としてしまう危険が減ります。24時間分の心電図を記録できるホルター心電図は、循環器の外来で一般的に行われる検査です。しかし、24時間でも十分ではなく、その日がたまたま調子のいい日であれば、つらい時の心電図を記録できないかもしれません。さらに長く心電図を記録しようと、小型の機械を胸に植込むことで、数年にわたって心電図を記録し続けてくれる機械もあります。しかし、5mm程度の傷とはいえ、診断のために体に機械を植込むのは、なかなか受け入れにくいものです。

では、月に数回しかない胸の症状が心臓に原因があるのかどうかを知る方法はないのでしょうか。家庭用心電計はこのような状況に威力を発揮します。家庭用心電計は、手のひらサイズでどこへでも持ち運べるので、症状がある時に心電図を記録できます。長年苦しんできた辛い症状も、たった1枚その時の心電図があれば、専門医はそれが心臓に原因があるかないかを判断することができます。

当クリニックでは家庭用心電計の貸し出しをしています。症状のある時に記録された心電図をスマートフォンで送信することで、医師はクリニックで閲覧することができます。月に1回程度、意識が遠のくような症状がある患者様に家庭用心電計を使用して頂いたところ、すぐに発作が再発し発作性上室性頻拍という不整脈で、脈が速くなりすぎていたことが原因だとわかり、カテーテルアブレーションで根治できました。また、同じような症状でしたが、脈が遅くなりすぎてしまうことが原因と分かり、緊急でペースメーカーを植え込み、一命をとりとめた患者様もいらっしゃいます。このように、症状は同じでも、心電図が1枚あることで、最適な治療法が異なることもあります。一方で、長年心配した胸部の不快感も、繰り返し心電図を記録していただき、心臓に異常がないことがわかり、ご安心いただいた患者様もいらっしゃいます。

家電量販店では、家庭用心電計が販売されています。胸の症状の原因が心臓にあるかどうかをはっきりさせるには、家庭用心電計で心電図を記録し、専門医に見せましょう。心電図がますます身近になり、血圧計と同じように“一家に一台心電図”が普及し、家庭でできる心臓病の早期発見につながればと思います。