脈拍数とは、心臓から送り出された血液が脈になる回数です。手首の動脈の拍動を数えれば誰でも簡単に計測することができますが、そんなことをしなくても、家電量販店では様々な脈拍計が販売されています。Apple Watchなどのスマートウォッチは、装着しているだけで、無意識のうちに脈拍数を記録し続けてくれます。こうした記録は何の役に立つのでしょうか?
安静時の脈拍数の正常値は毎分50-100回とされています。運動をしたり、緊張をすると交感神経によって脈は自然と速くなり、100回を超えることもあります。一方、睡眠中などには副交感神経によって、脈拍は遅くなります。このように、脈拍は自律神経によって調整されています。しかしながら、運動や緊張をしていないのに、あるいは、睡眠中なのに、突然、脈拍数が100回/分を超える状態が続いた場合、何を考えればいいのでしょうか?
当クリニックでは、apple watchの貸し出しをしています。ある外来で、Apple Watchを装着して寝た患者様の記録を拝見したところ、午前2時から3時間、脈拍150回/分が続いていました。悪夢にうなされたわけでも、トイレに起きたわけでもなく、熟睡していたそうです。こうした自律神経に関係のない脈の上昇が続いた場合は不整脈の可能性があると判断し、すぐに24時間心電図を行ったところ、心房細動という不整脈が判明しました。
心房細動は直接命に関わる不整脈ではありませんが、致命的な脳梗塞の原因となります。症状があるとは限らないので、脳梗塞を起こして半身不随になってから、原因検査して初めて心房細動が見つかるという例も少なくありません。このように、スマートウオッチが、寝ている間の症状のない脈の変化を記録してくれたおかげで、精密検査を即座に行うことができ、合併症を起こす前に、不整脈の診断、治療に結びつくことができました。スマートウォッチは医療機器ではありませんから、つけ始めや、装着の仕方によっては、一時的に脈拍数を大きくあるいは小さく表記してしまう誤差もあります。しかし、何もしていないのに高い脈拍数が続いている場合は、心臓精密検査の必要性について専門医に相談するタイミングかもしれません。普段、心臓の動く回数を自覚して生活している人は少ないでしょう。脈拍数を知るためだけにスマートウォッチを毎日腕に巻きつけるのは面倒ですが、それ以外の機能を楽しんでいる間に、病気診断のきっかけを記録してくれているかもしれません。ヘルスケア外来ではこうしたウェアラブル健康機器による健康管理を、今後ますます充実させることを目標としています。