小川聡クリニック

読んで役立つ院長の医学講座 〜圧倒的な臨床経験と知識に裏打ちされた院長からのメッセージです〜

第1回「問診の大切さ」

初めてクリニックを受診される患者さんにとって、ご自身の苦しみをいかに正確に医師に伝えられるかが、病気を正しく診断してもらい、早く治療を始めてもらう上で大切なことです。予め、こういう具合の時には、医師は何を聞き出したいと思っているのかを知っておけば必ず役に立ちます。医師は病状によって、いろいろなことを質問しながら、頭の中で診断への糸口を組み立てていきます。それが問診です。

患者さんの病状、既往歴・家族歴を聞き取ることで、どんな病気が隠れているかの手掛かりを得ることを「問診」と呼びます。受診されるきっかけとなった病状、症状を細かく聞き取ることで、それだけで多くの病気の診断がつきます。経験ある医師にかかれば、心臓病の場合は80%位が問診で診断がつきます。ですので、問診にはゆっくり時間をかけることが大切です。患者さんから話を伺っていると、時には医学的には関係ないと思うような横道に逸れてしまうこともありますが、そうした中で思いがけずに核心を突く「訴え」を聞き出して正確な診断に至ることもあります。時間をかけた会話の中から、大事な情報を聞き出すのも医師の技術の一つです。

心臓・循環器領域では、すぐに対応しないと命に関わる病気が多く、速やかに正確な診断をつけることが求められます。例えば、「胸が痛い」と訴えてこられた患者さんの中には、心筋梗塞につながる狭心症(不安定狭心症)や、解離性大動脈瘤や、肺梗塞(エコノミークラス症候群)など、致命的になりうる病気があり、万が一にもそれを見落として帰宅されると、その日のうちにご自宅で命を落とす可能性もあり、一番神経を遣うところです。一方、運動で痛めた筋肉痛、肋間神経痛のこともあります。帯状疱疹も、発疹が出る前から神経痛のための胸の痛みを訴えます。肺の病気ですが、自然気胸も胸の痛みと呼吸困難を伴う病気で、これも程度によっては緊急治療を要することもあります。診察室で初めてお会いした患者さんに対して、それらの見極めをしなければなりません。待合室から診察室に入ってこられる時の様子や顔色も注意深く拝見しますし、問診、さらには診察、簡単な検査から一番怖い病気でないかどうかの判断が求められます。実はこの「胸痛」一つを取っても、痛みの起きる状況(安静時、労作時の違いや、走ったりした時にでた症状が、立ち止まっているとじきに治るとか)、痛み方、例えば深呼吸した時の痛みの変化や体位を変えた時に変化する痛みかなど、痛みの部位と広がり(指先で指し示せるような狭い範囲なのか、拳くらいの広さがあるのかなど)、痛みの性状(キリキリ痛む、重苦しい、締め付けられるなど)、痛みの続く時間、などを伺うだけでも怖い病気かどうかを瞬時に判断できるのです。これまでの長い臨床経験が役立ちます。逆に言えば、いかに正確にご自分の胸の痛みを表現して医師に伝えるかが大切なのです。忘れないように、症状の起きた時の様子をちょっとメモしておいて医者に見せましょう。