心臓は1分間に60~100回、規則的に収縮と拡張を繰り返しています。この拍動のリズムが乱れたり、異常に速くなったり(頻脈)、遅くなったり(徐脈)するのが「不整脈」です。不整脈には様々な種類があり、健康な人にも見られ、心配ないものもあれば、命に関わるような危険なものもあります。では、これらを見分けることはできるのでしょうか。命に関わる最も危険な不整脈は「心室細動」と呼ばれる不整脈です。心室の拍動が1分間に300回を超え、不規則にけいれんしたような状態になり、発生した瞬間から心臓からの血液の拍出が止まり、脳への血流もなくなるため、数秒以内に意識を失います。そのまま元の拍動が回復しなければ、突然死につながります。倒れた直後に、周囲の人が気付いて、近くにある「AED(自動体外式除細動器)」を用いて、心臓のけいれんを止める処置(電気ショック)が必要です。健康そうに活躍していた有名人が突然亡くなった場合に、死因が「致死性不整脈」と報道される事がありますが、まさにこの心室細動の事です。但し、心室細動は心臓に重い病気(心筋梗塞、心不全、弁膜症、心筋症など)がある場合にしか起こりません。しかもその原因の多くは、心臓の冠動脈が閉塞して発生する「急性心筋梗塞」です。ゴルフ場などで突然胸を抑えて倒れ、そのまま亡くなる方の多くもこれが原因と言われています。従って、心室細動を心配する前に、冠動脈の狭窄があるかどうか、心筋梗塞の前兆になる狭心症を見逃さない事が大切です。
心臓に何も病気がなくても、心臓の電気信号の伝わり方に遺伝的な異常がある「QT延長症候群」、「Brugada(ブルガダ)症候群」と呼ばれる疾患でも心室細動が発症します。これらは、心臓に病気がない事から「特発性」心室細動と呼ばれますが、心電図でQT延長やブルガダ型の徴候が見つかるので、普段から健康診断は欠かさず受けましょう。不整脈で突然死した血縁者がいる人も要注意です。
この心室細動と親戚で、怖い不整脈に「心室頻拍」があります。心室細動との違いは、心室から出る電気信号が規則的なことです。それでも拍動は1分間に200−250回になりますので、心室は空回りし、血液の拍出が低下し、失神したり、そのまま突然死に至ることもあります。
シリーズIIIでは、怖い不整脈の見分け方を中心に解説します。