小川聡クリニック

読んで役立つ院長の医学講座 〜圧倒的な臨床経験と知識に裏打ちされた院長からのメッセージです〜

第8回「自分で止められる頻拍症があります」

第2回の「動悸が突然始まり、失神してしまった」でお話しした発作性上室頻拍症は、診断が付けばカテーテルアブレーションで根治できます。但し、発作が滅多に起きない方や、起きても自覚症状も強くなく、放置しても1-2時間で自然に治る場合には、発作が出た時だけ頓服薬で早く止めると言う選択肢もあります。この他に知っておくと得をする停止法があるのをご存知でしょうか?意外と、かかりつけの先生から教わっていないこともあるのでお教えしましょう。

少し専門的になりますが、この頻拍症には、心臓全体に電気を流す刺激伝導系が関わっています。中でも、心房と心室の間にある「房室結節」がキーで、ここの伝導を抑えると頻拍が止まります。その一番良い方法が、迷走神経を緊張させることなのです。それには色々方法がありますが、自分で出来て、一番効果的なのが、「息ばる」ことです。専門的にはバルサルバ手技と呼ばれます。便秘の時に、硬い便を出そうとお腹に力を入れて「息ばる」、あのコツです。お腹が膨れるほど大きく一杯に息を吸込んで、口を閉じ、お腹にぐっと力を入れるのです。息が続かなくなるまで、顔も真っ赤になるほどに「息ばる」のです。1回で止まらなければ、それを繰り返してみましょう。もう一つの方法は、食後等にはお勧めしませんが、のどの奥に指を入れて、「ゲー」とさせることです。「嘔吐反射」による迷走神経刺激法です。本当に吐すことの無い様に、「オエー」とする程度で十分です。それで頻拍が止まった瞬間に胸の高鳴り(動悸)が治まります。

中には発作が出るたびに、苦しくなって救急車のお世話になり救急外来で点滴をしてもらって止めてもらう方もいらっしゃいます。今回お話しした止め方を知っているだけで、大騒ぎにならずに済みます。但し、本当に発作性上室頻拍かの正しい診断をしてもらった上で、やり方も専門医に正確に指導してもらう必要があります。

ちなみに、救急病院の医師も、薬での治療前に必ずこの方法をとってくれるはずです。さらに、医師ができる迷走神経刺激法もあります。それは、頸動脈マッサージ法で、バルサルバ手技よりも有効ですが、やり方を間違えると脳梗塞等を合併する危険もあるので、経験豊富な専門医でないとやりません。勿論、患者さん自身は全体にやってはいけません。

今では死語になりましたが、昔は「眼球圧迫法」も教科書に出ていました。これは効果が低い割に、眼球損傷の危険が有るので、今では医師もやってはいけない手技になっています。何を間違えてか、ご自分で目玉を強く圧して、真っ赤な目をして受診される患者さんも見たことがあります。古い先生の中には、そうした誤った指導をされることもありますので、ご注意ください。