小川聡クリニック

読んで役立つ院長の医学講座 〜圧倒的な臨床経験と知識に裏打ちされた院長からのメッセージです〜

第5回「歯茎が浮く感じも心臓から?」

私が慶應病院在籍中のことでした。ある日の外来中に口腔外科の先生から電話が入り、狭心症らしい患者さんがいるので診て欲しいと頼まれました。
50歳代の患者Cさんは、2-3ヶ月前から歯茎が浮いた感じを繰り返すため、何か所もの歯医者にかかってましたが、どこでも虫歯や歯茎の病気はない、と言われていました。それでも納得できず、慶應病院の口腔外科を受診したのです。そこで出会った先生が、Cさんが何気なく言った一言
「この前も、駅の階段を駆け上って電車に飛び乗った直後に、いつもの歯茎が浮く感じが出ました」、を聞いて、「これは狭心症じゃないか」と、ピンときたのです。素晴らしい歯医者さんではないですか!狭心症で歯茎が浮くことを知っておられたのです。
私の外来で直ぐに撮った安静時心電図は正常でしたが、運動負荷試験(マスター2階段試験)を施行したところ、「歯茎の浮く感じ」が再現され、その時の心電図では心筋の酸欠を示す典型的な異常が確認できました。もちろん、そのまま入院していただき、ステントによる冠動脈形成術で治療できました。

 

狭心症では、先述のとおり、「前胸部絞扼感」が特徴ですが、時として、左肩から二の腕の内側、さらには小指、薬指までが重苦しくなったり痺れたりする症状を伴います。これを狭心症の「放散痛」と呼びますが、「歯茎が浮く感じ」もこの放散痛の一種です。ただし、下顎までで、上顎には放散しません。
殆どは前胸部絞扼感と一緒に出る症状ですが、時としてCさんのように放散痛だけが出ることもあり、見逃されやすいので注意が必要です。
このことを知っているだけで、正しい診断に早く行きつけ、治療もできます。名医の歯医者さんに感謝です!