小川聡クリニック

読んで役立つ院長の医学講座 〜圧倒的な臨床経験と知識に裏打ちされた院長からのメッセージです〜

第5回「心臓病を避けるための生活習慣」

タバコ1本でも高まるリスク

生活習慣が大きく関わる心臓病の代表といえば、動脈硬化を原因とする狭心症、心筋梗塞等の虚血性心臓病と、血管の病気(大動脈瘤や頚動脈狭窄など)です。

特に、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの危険因子を併せもっている人は、狭心症や心筋梗塞のリスクが高いと考えられますので、普段からの食生活や運動への配慮が必要です。こうした生活改善を行ったうえで、それでも十分効果が上げられない場合には治療が必要になります。

喫煙者も同様です。従来から、喫煙が動脈硬化の危険因子である事はよく知られていました。米国での疫学研究で有名なフラミンガム研究によれば、喫煙者が虚血性心臓病になる危険性は非喫煙者の2〜3倍と言われます。

喫煙量が増えるほど危険性は増しますが、最近ロンドン大学のチームが公表したデータによると、一日あたりの喫煙本数を1本、5本、20本に分類して心筋梗塞などの虚血性心臓病にかかるリスクを非喫煙者と比較したところ、1本吸う男性で1・48倍、20本吸う人で2・04倍と高まることを明らかにしました。

ここで重要なのは、1本でもリスクが高まるのが示されたことです。ですから心臓病の危険因子を持っている方は、「減煙」ではなく「禁煙」が原則です。特に、既に狭心症でステント治療を受けた方や心筋梗塞の既往歴のある方は絶対に禁煙しなければなりません。

心筋梗塞の苦しさを経験した方や、冠動脈のステント治療を受けた方は、二度とタバコを吸いたくない気持ちになるのが普通です。それでも「のど元過ぎれば何とやら」で、いつの間にか喫煙が復活し、気がついた時にはまた病院の世話になる方もいます。

その点、飲酒に関しては、日本でも欧米でも同じですが、高血圧や心臓病の人への学会の推奨は、日本酒なら1合、ビール大瓶なら1本、ワインなら2杯まで、となっています。喫煙は「絶対にダメ」ですが、飲酒に関しては「ほどほど」は許されています。

下肢の動脈硬化で起きる「閉塞性動脈硬化症(ASO)」も同様で、早期発見・早期治療が肝心です。この病気は、歩行すると下肢の筋肉が酸欠になり、数分でふくらはぎが痛くなり歩けなくなります。しかししばらく休むと再び歩けるようになります。これを「間歇性跛行(かんけつせいはこう)」と呼びます。脊柱管狭窄症でも脚が麻痺してこの症状がでますが、ASOでは血流が減少するため脚が冷たくなるのが特徴です。

さらに症状が進行すると、安静にしていても脚に痛みが生じるようになり、さらに進むと血流が途絶え脚の先に壊疽を起こして脚を切断することになってしまいます。それ以上に問題なのは、ASO患者では、心筋梗塞のリスクが高まり5年間でなんと40%を超える死亡率が報告されています。

治療をするには、もちろん動脈硬化の危険因子の除去が不可欠ですが、ウォーキングなどの適度な運動が重要です。運動すると、細い血管(側副血行路)の発達を促し、血流が改善します。それによって血流量が増えれば、歩ける距離も延び、痛みも軽減されます。

また適度な運動は、高血圧や糖尿病、脂質異常症の改善にも効果があるため、心臓病のリスクを軽減することができるのです。

(「経済界」2019年4月号148頁から許可を得て転載)