小川聡クリニック

読んで役立つ院長の医学講座 〜圧倒的な臨床経験と知識に裏打ちされた院長からのメッセージです〜

第1回「心臓性急死とは?」

前胸部に違和感を感じたら要注意

俳優の大杉蓮さんが平成30年2月に急性心不全のため急逝されました。亡くなる前日までドラマの撮影を行い、宿泊先のホテルで体調不良を訴えてから、わずか4時間後に亡くなったことは、多くの人に心臓病の怖さを教えることになりました。日本の突然死の7割は大杉さんのように心血管疾患(心臓病)によるものです。また日本人の死因で心臓病は癌に次いで2位となっています。そこでこの連載では、いかにして心臓病を防ぐか、その原因や予防法、治療法についてお伝えしたいと思います。

大杉さんのように健康そうに活躍していた方が突然亡くなった場合に、死因の多くが「急性心不全」や「致死性不整脈」です。心臓に原因があって、急に心臓の拍動が止まることで亡くなるので、こう呼ばれます。

心臓は、毎日およそ10万回、絶え間なく拍動を繰り返しています。そのため心臓の筋肉(心筋)はエネルギー源として常に大量の酸素と栄養分を必要としており、これを心臓の表面に分布する「冠動脈」から受けています。この冠動脈に動脈硬化が生じて狭窄すると、とたんに心筋が酸欠となり悲鳴をあげます。この悲鳴は「前胸部圧迫感」や「胸の真ん中あたりを掌でワシ掴みにしたくなるような絞扼感」として自覚されます。特に、走ったり、階段上ったり、精神的に興奮して心臓の拍動が増えたときに感じるのが特徴です。

少し休んで脈が下がると、酸欠が消え症状もスッと治まります。これが、「労作性狭心症」です。さらに動脈硬化が進行し、狭窄した血管に血栓が詰まったりすると、血流が完全に途絶えて心筋が壊死に陥ります。安静にしていても治りません。それが「急性心筋梗塞」です。ゴルフ場などで突然胸を押さえて倒れ、そのまま亡くなる方もいらっしゃいますが、その多くもこれが原因で、「心臓性急死」とも呼ばれます。

急性心筋梗塞になると、1−2時間以内に壊死した心筋から致死性不整脈である心室細動が発生して心拍動が止まり、死に至ります。この場合には、近くに設置されているAEDで、心室細動を停止させるしか救命の方法はありません。
もちろん一刻も早く専門病院に搬送して、閉塞した冠動脈を開く冠動脈形成術ができれば救命可能です。こうした事態を回避するには、労作性狭心症の段階で見逃さない事が大切です。

急性心筋梗塞のサインに気をつけろ

ここで注意が必要なのは、狭心症では、前述のとおり、「前胸部絞扼感」が特徴ですが、時として、左肩から二の腕の内側、さらには小指、薬指までが痺れたりする症状を伴います。あるいは、心窩部(みぞおちの辺り)の痛みを訴えることもあり、消化器センターに救急で受診する方もいます。「歯茎が浮く感じ」もあります(ただし、下顎までで上顎には出ません)。これらを狭心症の「放散痛」と呼びます。殆どは前胸部絞扼感と一緒に出る症状ですが、時として放散痛だけが出ることもあり、見逃されやすいので注意が必要です。

専門医を受診すれば、そのような症状が出ている際や、運動負荷試験などで、心筋の酸欠を示す典型的な異常が確認できますので、水際で治療ができます。心当たりのある方は、今すぐ専門医を訪ねてください。

(「経済界」2018年6月号100頁から許可を得て転載)