小川聡クリニック

読んで役立つ院長の医学講座 〜圧倒的な臨床経験と知識に裏打ちされた院長からのメッセージです〜

第8回「ペースメーカーを植え込んで心停止を防ぐ」

洞不全症候群にしても房室ブロックにしても、洞結節からの電気信号が心室に到達しない場合、心停止が生じます。それを補うため、洞結節より下部に位置する他の刺激伝導系細胞から電気信号が発生して心臓を動かす予備システム(補充調律)が備わっていますが、十分ではありません。一般的に、洞結節で発生する電気信号が最も速く、下部になるほど遅くなります。房室結節から出る補充調律は毎分40-50回程度、心室からでは20-30回程度で、とても体が必要とする血液を拍出できません。

そこで行われる治療が「ペースメーカー」の植え込み手術です。体内に、電気信号を発生する小型の機器を植え込んで、心室の拍動数が一定以下に落ちた際に心臓を動かしてくれます。ペースメーカー治療が適応となるのは、洞不全症候群や房室ブロックで生じた心停止により「失神やめまいなどの症状がある」、あるいは高度の徐脈により体が必要とする心拍出量を維持できなくなり、全身倦怠感や心不全を生じている様な場合です。無症状の場合でも、24時間ホルター心電図検査などで一定以上(通常は4秒以上)の心停止が偶然見つかった場合に、予防的植え込みが行われることもあります。そこには、近い将来起きうるであろう失神や事故の危険性を、専門医がどこまで予測するかで決まります。高度の判断が必要です。

一方で、降圧薬、抗狭心症薬、抗不整脈薬など、薬の副作用で長い心停止が生じる場合があります。それらの薬を中止するだけで正常の拍動数が回復することがあり、ペースメーカー植え込みをせずに済むこともあります。