小川聡クリニック

読んで役立つ院長の医学講座 〜圧倒的な臨床経験と知識に裏打ちされた院長からのメッセージです〜

第3回「ゴルフ中に胸が圧迫されるが、立ち止まると2-3分で治まる」

64歳男性のBさんは、名門ゴルフ場の会員で、仲間と毎週ゴルフに興じています。数週間前から、いつも同じ上り坂まで来ると「胸が重苦しく痛い」と感じていました。立ち止まって苦しそうにしているBさんに、一緒にプレーしている仲間が気づき、聞いてみると「胸が痛むんだ」、「無理なスイングするから肋骨を痛めたんだよ」というやりとりがあり、知り合いの整形外科を受診し、レントゲンでは骨折はないから大丈夫、と湿布薬をもらって帰りました。しかし、その後も同じ症状が続き、ある日、偶然一緒にラウンドした医師(私の友人)が、その話を聞き、「それは狭心症かもしれないよ」と気付いてくれました。その日のゴルフ帰りにクリニックに寄ってくれたので、心電図を記録すると、おそらくその日のラウンド中に起きた狭心症の兆候が僅かですが私の目にとまりました(これもかなり専門的な目がないと見落とされる所見です)。話を聞けば、「胸が痛い」のではなく、坂道を登っている際に「胸の真ん中あたりが締め付けられるように重苦しくなる」症状だったようです。これは、専門的には「前胸部絞扼感」と呼び、労作中に起き、安静にすれば2-3分で嘘のようにスーッと治まるもので、労作性狭心症に典型的です。詳しく聞くと、この2-3週間で次第にこの「前胸部絞扼感」の程度が強くなり、立ち止まっても治るまでの時間も長くなり、より短い坂道でも起きやすくなっている、とのことでした。これは狭心症の中でも非常に危険な「不安定狭心症」と呼ばれるもので、より重症な心筋梗塞への前触れなのです。

緊急性を感じた私は、その日のうちに冠動脈造影検査を受けてもらいました。結果は、3本ある冠動脈の中でも最も大事な左前下行枝の根元に動脈硬化による狭窄が見つかりました。血管の99%が閉塞しており、その場所を流れる血流はまさに糸のようで、いつ完全に詰まってもおかしくない状態でした。そのまま、ステントを挿入して狭窄部を広げ、血流を完全に再開できました。恐らく、このまま次のラウンドに出かけていれば、重篤な心筋梗塞を起こし、その場に昏倒して、そのまま亡くなる、いわゆる「突然死」を起こしていたに違いありません。

胸の中央が重苦しくなる、締め付けられる症状は要注意です。経験豊かで判断力があり、心電図の僅かな兆候も見逃さない、直ぐに必要な治療が実行できる専門医にかかるかどうかが命の分かれ目です!